人生はミュージカル

自戒と快楽の狭間で生きる夢見がち女による雑記

本のある帰り道

あ、携帯忘れた。

 それは直感に近かった。鞄を一通り探ったけれど無さそう、やっぱりね。

親との連絡や大学のこともなんとかなりそうだったけれど、1番の心配は帰り道であった。

 

通学時間が長く、座ることも出来ないので暇ほど嫌〜なものはない。普段は非生産的ながらiPhoneを弄って時間を潰しているが、今日はどうしようか。教科書でも読めば良いのだが、自習室の帰りにそんな気持ちなんて到底なれない。

 

だから、本を買って帰ろうという考えに至ったのは自然だったかもしれない。

 

所持金800円で大学近くの本屋さんに入り、文庫本コーナーをウロウロ。

ただの時間潰しで最後まで読める自信も無いから長編小説はナシ。短編か随筆かな。詩集にも惹かれる。

結局銀河鉄道の夜(宮沢賢治)と女の人差し指(向田邦子)の一騎打ちの末、後者を買い上げた。

宮沢賢治も好きだけど、「銀河鉄道の夜」は家に何冊もあるんだな…(笑)

 

 

向田邦子向田邦子

小学生の頃から憧れの彼女。彼女の本はとても久しぶりだけど、気に入ることは読む前からわかっていた。

 彼女はいつだってわたしの味方だもん。

最近はかなり落ち込むことが続きポジティブ人間の私ですら元気が出せずにいたが、彼女なら私に寄り添って笑い飛ばしてくれるような安心感があった。

 

久しぶりに買った、彼女の本。

手に取ると湧いてくる古くからの友達に再会したような高揚感。

ホームで早速本を開くと、夢中になってしまった。それはもう、ホームドアが開く瞬間も顔を上げることが出来ないくらいに。

乗り換え時間すら惜しくて、人差し指を頁の間に挟み小走りした。

 

旧友の積もる話を聞いているような気分でページをめくり、くすくす笑いを堪える。

彼女は私が生まれるずぅっと前に亡くなったけれども、その時私は確かに彼女のお家に招かれて延々相槌を打っていた。

あんなに落ち込んでいたはずなのに、「お供にキャラメルフラペチーノでも買って帰ろうかな」と楽しい事がポンと思い浮かぶ。

もう何でもいいや〜と沈んでいたけれど、ちょっとワクワクしてみようと前向きな気持ちになった。

そして久しぶりにブログを更新したくなっちゃったのだ。

 

 

 

本のある帰り道。

「本は携帯電話という呪縛から私たちを放ってくれる。」なんて言うと一周回って俗っぽいけれども、たしかに本は私を普段とはちょっぴり違う優しい世界へ連れて行ってくれた。

 

では明日からの帰り道は本を読むのか、となるとそれは多分そうじゃないんだろうな。

 

ただ、本のある帰り道は素敵だった。

とある1日の甘く美しいハイライトとして、なんだかブログに残したいくらい、素敵だったんだ。