人生はミュージカル

自戒と快楽の狭間で生きる夢見がち女による雑記

世界一かっこいい先生

わたしの中学・高校にはすごい先生がいました。
すごい、先生です。
小柄で美しいお年を召した先生ですが、怖くて厳しくて、試験が鬼のように難しくて、話の長い先生。

話す言葉のひとつひとつに揺さぶられてしまうくらいパワーがありました。
中学入学と同時に出会い、最後の授業に一頻り話し、
「いい?貴女達、世界一かっこいい女になりなさい」
と強く仰いました。
これは魔法の言葉。ある種呪いのように、何年経っても頭の中をふとよぎるのです。多分死ぬまでこの言葉から逃れられることはないでしょう。











この前、常に私たちを叱り、励まし、讃え、見守る先生に会いたくて、会ってきた。

わたし、ずっと、「世界一かっこいい女」っていうのは先生のような女性だと思ってたんだ。
久しぶりに会った先生はやっぱり美しくて、堂々としていて、かっこよかったもの。

恋人に会うかのような高揚感で講師室の扉を開けて懐かしい名前を呼ぶ。期待に頰を火照らせて先生の支度を待つ。おしゃべりしつつ懐かしい街を並んで歩く。少し照れながら向かい合って食事をする。
卒業した今は在校生の頃は口が裂けても言えなかった話も沢山できちゃう。悪事、本音、進学、成績、遅刻や寝坊などのだらしのない話。

話を聞きながら灰色のウェーブかかった髪をグシャっと細い指でかきあげる先生の仕草がかっこよくて好き。昔から。


でも、話していくうちにわかった。先生のいう世界一かっこいい女っていうのは先生のことじゃなかったんだなぁ。

先生は私たちを讃えてくれた。「若いのに勉強して、将来を考えて、素晴らしいと思う」と強く言ってくれた。
「私が若い頃は将来のことなんてあまり考えなかったわ」と。
そして、「無知だった若い頃には絶対に戻りたくない」と続けた。

ねぇ、どれだけの人が年をとってから若い自分を「無知だから戻りたくない」なんて言うことができるかな。
大抵の人が若い頃の方が頭が良かった、若い頃に戻りたい、って思うんだよ。特に女性が「若い頃に戻りたくない」なんて言える年の重ね方をするというのはすごく難しい。
もちろん、若い頃の先生が何も考えない無知な人だったわけがないんだよ。


私たちのことをずっとえらい、すごいっていう先生。
だって、先生が考えろっていったんじゃない。
先生の言葉が私たちを動かし、先生の存在が私たちを急かしたのだ。

先生は「世界一かっこいい女」が誰かなんて考えていなかったのかも。自分の胸の中にあるそれぞれの理想に近づけ追い越せという想いで私たちにお話していたんだろうな。
でも、私たちはいつの間にか先生の背中を見つめて、先生のようになりたいと、もがき続けていた。
そんな影響力を与えられるなんて、世界一かっこいい女にしかできることじゃないとおもう。



本当に楽しい時間だった。
なにがあっても自分を認めてくれる、愛してくれる存在がいるってだけで頑張れそうだ。
なにかを諦めそうになっても、世界一かっこいい女になるという言葉を思い出す限り、私は頑張ることを誓うよ。


あまりにも書きたいことがありすぎて、変な文になっちゃった。
考えたことを書くのは簡単だけど、出来事を書くのってすごく難しい。